溺れる恋は藁をも掴む
 困った俺を察して、莉緒はまた話し出した。


 「晶はさ……
 何だか悲しい顔で笑うよね。

 深いものを心に隠して、わざと笑顔に変えようとする。

 私で楽になるなら聞いてあげる。

 楽にしてあげるよ……」



 莉緒は俺をギュッと抱きしめた。
 
 肌の温もりを感じながら、弱っていた心を曝け出したな。


 最初に、子供の頃の最悪な家庭環境から話していた。


 心が解放されたいって、叫んだ。  


 高校の時に親父が亡くなって、ホッとしてしまった反面、これから先の事が不安になった。

 不安になった矢先に、親父がこっそり掛けていた保険のお陰で、家のローンも心配する事がなくなって、家族が路頭に迷うことないくらいの金が入った。


 不安が安心に変わった。

 葬儀には沢山の人が集まって、親父の死を哀しみ、偲んでた。

 人間ってさ、最期の最期にその人の生き様ってもんが分かるもんなんだな……

 どうしょうもないって思っていた人間は、信頼が厚くて、沢山の人に慕われる男だった。

 不器用な反面、いざという時の事は、ちゃんと考えてた。

 ずっと恨んできた気持ちを覆された。

 ここまで厳禁になれる自分を、醜いって思った。

 自分が自分で分からなくなってしまっていた。



 そんな時に現れた百合。

 百合が居たから俺は立ち直る事が出来たんだ。


 莉緒は俺を優しく抱きながら、その話を聞いてくれた。  

 『ウンウン』と相槌を打つ、莉緒の声が優しく心に響いた。

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