溺れる恋は藁をも掴む
 思えば、真面目な高校生だった俺……
 性的なものに全く興味がなかった訳ではない。

 百合を見ていたら、自分のものにしたくなる衝動に駆られた。

 受験生であり、俺に居場所を与えてくれた百合。

 自分にそう言い聞かせて、やましい気持ちを吹き飛ばした。

 理性も保ってていたんだ。

 夏期講習が無事に終わって、夏休みも残り僅かな時にさ……

 「たまには息抜きしてぇー」
って、百合の前で呟いた。

 「あら、余裕な受験生ですこと」
百合はからかうように笑った。

 「百合さんは息抜きしたくないの?」

 「したーい……けど……」

 「なんだ、百合さんもしたいんじゃん!
 ねぇ、どっか行く?
1日くらいいいじゃん!」

「‥‥‥行きたいかな」


 百合のお店が休みの日曜日に、ディズニーランドに行く事にしたんだ。

 百合は子供みたいにはしゃいだ。

 ディズニーランドに行くのは初めてだったらしい。



 夏休みのディズニーランドは混んでいて、暑かったし、待ち時間半端なくて、面倒臭くもなったけど………

 百合のはしゃぎぶりを見ていたら、そんな事も言えず付き合った。

 汗だくになりながら、スペースマウンテンを並んだよ。

 「キャーキャー」
悲鳴をあげる百合が可愛かった。

 カリブの海賊、ビックサンダーマウンテン、
ジャングルクルーズまで付き合って、ヘトヘトになった。

 最後はホンテッドマンションに行ったんだ。

 「これが最後の乗り物か‥‥
寂しいな」

 「また、来ればいいじゃん」

 「だね‥‥」

 「また、一緒に来ればいいじゃん」

 俺はね、勇気を振り絞って、ホンテッドマンションの薄暗さとムードに任せて、百合にキスしたんだ。



ーーずっと、百合にキスしたかったからーー



< 199 / 241 >

この作品をシェア

pagetop