溺れる恋は藁をも掴む
 誠治さんの話は続いた。
私はただ黙って聞いていた。


 「その頃から俺は人間不信気味になっていた。
 祖母は俺を可愛がってくれたけど、俺の母親は、『ふしだらな女』と言われて育ってきたんだ。

 それに再婚した親父に、若い母親と美月。

 美月の母親は俺に優しくしてくれたけど、上手く馴染めなかった。

 子供だったからさ、大人の事情より、自分の気持ちがついてゆけなかったんだよね……

 それでも、赤ん坊の美月が居てくれたお陰で、家族っていう空気は保てたんだ。

 血は繋がってない妹だけど、可愛いって思ったよ。

 美月が居てくれたお陰で、歪んだ気持ちも救われてゆくような気がした。

 美月が居るだけであったかい気持ちにもなれたんだ。

 可愛いって思った気持ちが、いつしか恋心に変わってしまった……

 自分にも止められないほど、好きになっていた。

 いけない事って分かっていても、その気持ちを抑えられなくなっていた……

 勿論、間違いを起こす気なんてない。
理性だってある。


 でも……

 このままじゃいけないって思ったから、こっちに就職をして距離を持ったんだ。


 華ちゃんと真剣に付き合おうと思った。

 華ちゃんは自分の気持ちに正直な人だから、それにあやかりたくもなった。

 気持ちを華ちゃんに向けよう。
向けたいと思えば思うほど……ダメだった。

 俺のエゴで、華ちゃんを傷つけてしまった。

 自分は最低な男だと思う。

 ーー本当にごめんなさいーー

 こんな異常な男で申し訳ない…」


 誠治さんは悲しい目をして、私に頭を下げた。

 血の繋がってない妹さんをずっと好きだったのね……
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