溺れる恋は藁をも掴む
 がっかりした……

 ーー掴んだ藁すらも、もはや、この手から離した方が賢明に思えたーー

 
 高級フランス料理の味は、私の舌には合わない。


 あなたの口から、私達の未来ある話など出てきやしない。

 ーーあなたは、残酷なくらい、正直な人ーー

 鈍感な私でも、これがあなたとの最後の晩餐で、今日が誕生日の私に情けをかけたのが、アリアリと分かってしまったのだから……


 私の笑顔も凍っていった。
それでも、食事が終わるまで、乗り切ったんだ。

 心に棘を植え付けながらね…


 食事が終わって、店を出る。

 「いくらでしたか?」
店を出てから聞いてみた。

 「華ちゃんへの誕生日プレゼントだから、お金は気にしないで!」

 形の残らないものを選んだあなた。
でも、私はこの夜をしっかりと記憶してしまう。

 ーー私との恋は、あなたの中ではとっくに終わっていたーー


 「有難う御座います…」

 「いえいえ、
それとね……明日は早朝会議なんだ。
帰ってからさ‥‥揃えたい資料があって‥‥」

 取り繕う嘘が、あなたの口から出る。

 「無理しないで下さい…」

 「本当にごめん」

 「ごめんばかりですね!」

 イラっとした。
そして、無言で俯くあなたを見ているのが、辛くなったわ。


 「私は誠治さんと居て、苦しくなりました。
もう‥‥‥‥
無理しないで下さい!」

 
 ーーもう、限界ーー
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