彼女は世界滅亡を描く。
Prologue
その日、私は初めて雪を見た。
見慣れない景色が私の左側を通り過ぎていく午後。
前の車は大量の雪を屋根に積んで、白い雪の残る道路に時折その雪を落としては走り続けている。道路の上を通る電線からは溶け出した雪が雨のように降っていた。
「後どれくらいですか?」
「んー、そうだな、一時間くらいかな。」
「なが…。」
ぼそりと呟いた声が少し冷たくなってしまったのはきっと疲労のせいだ。初めての雪に私のテンションは間違いなくあがっていたし、窓の外を流れていく景色も悪くない。
それでもやはり心が晴れないのは、世界滅亡を目の当たりにしたからだろうか。
「ここだって、もうすぐ沈んじゃうのに。」
窓の外の景色を指でなぞると、指から紺色が溢れて海に沈んだように見えた。
しまった、また怒られてしまう。
私はふいと顔を背けて紺色に汚れたガラスを視界からおいやった。
「気分悪い?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと長旅で疲れちゃったのかも。」
運転席からの声に努めて明るく返して、もう怒る人もいないんだったな、と私は目を伏せた。
私達の街は、海に沈んだ。
< 1 / 25 >