彼女は世界滅亡を描く。
「ウリワリさんが俺をどう思ってるか知らないけど、不幸自慢なら負けないよ。…俺も、ウリワリさんと同じ光景を知ってる。」
「…え?」
「信じられない?」
「…馬鹿じゃないの。」
「覚えてる限りじゃ、5回。」
私が面白くない冗談だと鼻で笑うと青年も笑った。
泣きそうな顔。
その瞳には海が揺らいでいた。

「知恵比べしようか。」
「はぁ?」
「今から言う5つの街が、どこの県にあるか答えなさい。一つ目。」
「…ちょっ!」
本気なの、と私はため息をついて頭をフル回転させる。地理は得意だが、各都道府県の市町村なんて全部覚えているわけがない。
「南風原町。」
「………沖縄?」
「正解。じゃぁ、天草市。」
「熊本。」
「福津市。」
私が顔をしかめると、青年は指を3本立てる。
「ヒント1、福間海岸。ヒント2、東郷神社。ヒント3は大ヒント。宮地嶽神社。」
「…福岡?」
「正解。じゃぁ4つ目。白浜町。」
「和歌山。」
「ラスト、南伊豆。」
「静岡。」
「大正解。すごいね。」
「…なんなの、ほんとにさっきから。」
「俺が覚えてる限りの、沈んでった街。」
「…ふざけるのも大概にして。」
「ふざけてないよ。5回、沈んだ。」
手を開いたり閉じたり、青年はしばらくそうしてゆっくりと口を開く。
「もうこれ以上泣けないってくらいたくさん泣いたから、どんなに悲しくても泣けないんだよね。」
「…何、それ。」
「幸いだったのは、両親が死んだのが3回目だったこと。まだ、泣けたし、俺ももう分別ができる程度の年齢になってたから。」
「…ほんとに、言ってるの……。」
「俺は別に、事細かに話しても構わないよ。」
「…いい。聞きたくない。」
私が小さくごめんなさい、と呟くと青年の優しい声が聞こえた。
「でも、生きてるから、ウリワリさんにも出会えたんだよね。」
青年は眩しかった。
やっぱり、私にはこんな風にはなれない。
後4回もの悲しみを背負ったとしても、青年のようにはなれない。
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