彼女は世界滅亡を描く。

「はい。」
男はなんでもないように答えた。
「火星…？！」
全く状況が飲み込めない。
「火星って、太陽系の地球型惑星の…？地球の外側の軌道を公転していて、自転周期が24時間39分で、重力が地球のおよそ40%の…その火星ですか…？」
「自転周期は平均しておよそ24時間39分35.244秒ですが、ウリワリさんの仰られている火星と非常に類似度が高いので、同じと断定しても差し支えはないかと。」
「…それで、その火星から地球に来てお仕事を？」
「はい。そうですね。主に晴天の時のみですが、こちらの言葉では火星から地球へ通勤しているということになります。」
「…はぁ。」
どういうことなのか全くわからないが、目の前に座っているこの男が火星人であることはどうやら間違いないらしい。こんな突飛な話を信じるなんてばからしいが、男が嘘をつく理由も見当たらないので、私は男の話を聞くことにする。
「なんで、火星からわざわざ…？」
「ウリワリ様は火星への移住計画が過去に何度か行われていたことは知っていますか？」
「…でも、全部失敗したって……。」
「ええ、21世紀が終わるまではそうでした。実は、22世紀に入り計画が成功しているんです。しかし地球ではその頃には既に様々な政治的かつ軍事的思惑から情報操作が入り、各国の政治家や軍人といった上流階級の者にのみ伝えられました。つまり、火星への移住計画の成功は地球の歴史から抹消されていただけなのです。現在では、大量の人間が火星で既に生活をしています。」
「え…？！」
「火星へ移住した人々は新たに火星で政治を始め、国を作り、法を作り、星を治めてきました。しかし、火星には元々資源が少ないために繁栄をとげた地球の構造を改めて見直さなければならないことが分かったのです。我々には、地球を知り、模倣することで第二の地球を築き上げる必要があります。」
「そのために、地球へ？」
「ええ。生態調査や水質検査、歴史、科学技術などありとあらゆる分野で調べています。残念ながら地球で生きてきた人間は皆火星にはもういなくなりましたから。もちろん、遺産に膨大な文書はありますが…それらのほとんどは火星開拓技術ですので、地球の資料は数えるほどしかないんですよ。」
にこりと微笑まれて、私はわかったような分からないような、この非現実的な話にただ頷いた。
街が沈んだ、その次は火星人の到来か。
私がじっと考えていると、隣でマキくんが笑う。
「他に聞きたいことは？」
私はマキくんをじっと見つめて、そういえば、と口を開いた。
「どうやってマキくんはこのことを知ったの？」
私がマキくんを見つめると、彼の瞳が揺らぐ。それが答えだった。
「……偶然だよ。」
取り繕うような笑顔にごまかされて、それ以上は踏み込んでくるなと牽制される。
「地球のことを知るには、地球の方をお招きするのが一番ですから。」
にこりと微笑む男も男だ。和やかな笑みはまるで用意していたかのような美しい解答だった。
「ぜひまたウリワリ様も遊びにいらしてください。地球の話を聞くことも、私の仕事の役目と心得ております。」
「…はい。」
うまく話をまとめられ、私は小さくため息をついた。