彼女は世界滅亡を描く。
「あれ?この窓ガラスの…絵の具ですか?」
荷物を大方運び入れて、ぐっと背伸びをした青年は助手席のガラスについた紺を見て指差す。
「え?」
「ほら、これです。」
「ああ、これはいいんだ…。」
不思議そうに首をかしげる青年から視線をそらした彼が、私をちらりと見てにこりと笑う。その目はどこか切なげで、彼には私の気持ちが全て分かっているんだろうな、と思った。私はごめんなさいと小さく俯いて、車の中から最後のダンボールを持ち上げる。
彼は私の頭をくしゃりと撫でて、ありがとう、ともう一度笑った。
やはり、その目は切ない。
私は頷いて、彼の目を見ないようにダンボールに半分隠れた足元を見つめる。そして私の前を立つ彼の足を追いかけて、ゆっくりと一歩を踏み出した。
笑えなくなっても、生きていかなくちゃいけない。
私はぎゅ、と雪を鳴らした。
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