これを『運命の恋』と呼ばないで!
金曜日になった。今のところ京塚先輩からのお誘いはこない。

3日前、青空先輩が割り込んできた後も何の音沙汰もなく、時間だけが過ぎ去った。


ーーあの日、退社しようとしてた私に青空先輩がビニールの袋を手渡してきて。



『食え。お前にやる』


(何を?)と思って口を開いた。

ビニール袋の中には、コンビニで売ってる豚バラ串が入ってた。


『疲れてるみたいだからそれ食ってスタミナつけろ。今日みたいな仕事ぶりを明日からも続けるなよ!』


でないと金払わせるぞ!…と脅される。

そう言いつつも明らかにバツの悪そうな顔をしていて、昼間の勘違いと言い、この豚バラ串と言い、どうにもおかしくなってしまい……


(ふふふ……)


先輩らしいと言うべきか、私のことをよく分かってると言うべきか。


『ありがとうございます。お漬物と一緒に頂きます』


小刻みに肩を震わせてお礼を言った。
青空先輩は照れ隠しのようによそを向き、『じゃあな!』と挨拶して逃げた。


手の中に握られたビニール袋を通して思いやりが伝わった。
先輩なりに私のことを怒鳴り過ぎた…と、反省してたのかもしれない。


思いを噛みしめるようにぎゅっと握って帰った。
このまま京塚先輩が誘ってこなくてもいいい…とすら思った。


救世主は青空先輩だと思っておきたい。

他の誰にも、自分の中に住んで欲しくない。

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