これを『運命の恋』と呼ばないで!
青空奏汰がいればいい。

こんな細やかな触れ合いが重なるだけでいい。

それだけで、私は十分幸せだーーー



そう思いつつ翌日からの仕事に取り組んでた。
失敗しながらだったけど、それなりに充実した毎日を送っていた。


金曜日の午後になっても、京塚先輩からのお誘いはこない。
もう二度とないのかな…と、私自身思い始めていた頃だ。



「空君、部長がお呼びよ」


席を離れてた汐見先輩がオフィスへと戻り、いつになく厳しい顔つきで名前を呼んだ。


「おぅ、分かった」


先輩は彼女に目を向け、カタン…と椅子を離れる。


「あっ、若山」

「はいっ」


このところ、先輩からの『バカ山』発言は聞かれない。
私もかなり注意して仕事を進めていたけれど、先輩自身がスゴく忙しそうなんだ。


「経理報告書の数字、伝票と照合し直しとけよ。お前この間入力した時、かなり間違えてたぞ!」

「げっ。すみません!直ぐやります!」


その場限りの『彼女』発言は効果の一つも発動せず、私はその後も片思いを続けてる。


報告書を確認しながら隣の様子を伺うと、汐見先輩は黙って仕事をこなしている。


このところの先輩は、必要以上の速さで仕事をしてるみたいだった。

もしかしたら、青空先輩以上の仕事ぶりを発揮してるんじゃないかと思う時もある程だ。

仕事ができて、美人で優しくて、後輩への思いやりもあるなんて不公平だ。

私には何一つ取り柄なんて無いのに。

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