これを『運命の恋』と呼ばないで!
「……まあまあです」


味なんて分かる訳ない。
頭の中が混乱だらけだ。


先輩は肩を落として自分の分を買った。
手にした缶コーヒーを振り、プルタブを中に押し込んだ。



「お前のこと、汐見に頼んであるから」


吐き捨てるように呟いてソファへ座った。
見下ろした姿勢でいるのも生意気な気がして、間を空けて隣に座る。


「俺がいなくなるからって気ぃ抜いた仕事はするなよ」


笑みを浮かべて加える。
不出来な後輩を自分の彼女に託せるんだから先輩としては本望だろう。


……でも、私はそんなの嫌だ。
あの隙のない仕事をする人に自分の面倒なんて見て欲しくない。


怒られてもイヤミを言われても青空先輩の方がいい。

無責任だろうがなんだろうが、たまに優しさに触れられる方がいい。



「そんなの、私は嫌です」


ぎゅっと缶を握って反論した。

汐見先輩は青空先輩のように怒鳴ったりもしなければ、イヤミも言ったりしないと思う。


だけど嫌。

あの隙のない仕事ぶりをしながら毎日迫られる様な目で見られるのは嫌。


「お前な、嫌とか偉そうに言える立場なのか?」


無能な社員は言われた通りにしておけってこと!?
何も選べず、ワガママも言わずにいろって言うの!?


「先輩は…私の面倒を見るのが嫌になったから海外勤務を受けたんですか?」


そんな気がしてしまう。
それで私を汐見先輩に預けようと決めたのか。


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