これを『運命の恋』と呼ばないで!
青空先輩は部長に呼び出された後、直ぐに本社へ行くと言い、オフィスを後にしてしまった。


私は怖くて先輩の顔が見れなかった。
借りっぱなしのハンドタオルには、メイクの汚れも付いたから返せもしない。



新しい物を買って返そう。
そして、この汚れた物は自分が大事にしまっておこう。



(先輩と会えた記念として)


そう決めて退社時間を迎えた。




「ナッちゃん元気出してね」


オフィスの前で別れた時、汐見先輩はそう言って励ましてくれた。
青空先輩が去った後、この人に指導されるのかと思うと切なくなる。

ショボくれて歩きだしたら電話の音が鳴りだした。
ゴソゴソとバッグから取り出し、四角い画面を確かめる。



『京塚理斗』


表示された名前を見て、ズキッと小さく胸が鳴った。



「もしもし…」


ホントならこの電話も出てはいけないんだと思う。
でも今は、何にでも縋りたいくらいに落ち込みが酷い。


「ナッちゃん?」


丸っぽい声が優しく問いかける。
ぐっと胸に迫るものを感じて、涙が溢れ落ちそうになった。


「はい……そうです」


京塚先輩の優しさが苦しい。
苦しいのに頼りたい気分に襲われる。


(ヘタレだ。私は……)


神様、こんな弱い人間だから私には死期が迫るんでしょうか。
だから、先輩も遠くに行ってしまうの。


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