これを『運命の恋』と呼ばないで!
「…あの、急で申し訳ないんだけど、明日会ってもらえる?」


遠慮がちに聞かれた。
会うも会わないも、今は自分が弱すぎる。


「はい…いいですよ」


言葉短く承諾した。
電話の向こうで京塚先輩の吐息が漏れる。


「…良かった。ありがとう」


お礼を言うのは私の方だ。
こんな気分の時に会えるのなら悪魔でも何でも構わない。


「悪いんだけど、仕事が終わったら店の方に来てくれる?そこで大事な話があるから」


(大事な話?)


まさか……と思いつつ否定した。
こんな時に「婚期」の二文字が浮かんだ。


「分かりました。終わり次第伺います」


丁寧な口調のまま電話を切った。

京塚先輩はそんな私のことをどんな風に思っただろうか。



(大事な話って何?)


今は難しいことは考えれない。
迫ってくる別れで頭の中がいっぱい過ぎて、ボンヤリとしか進んでいかない。



汐見先輩は、「海外支社へ行ったら最低でも1年は戻ってこれない」と言った。

1年後、青空先輩が社に戻ってきたとして、私がそこにいる可能性は少ない。


死期が迫ってるという言葉の通りなら、私は既にこの世の人間ではなくなってる。

先輩の転勤イコール永遠の別れ…ということになってしまうんだ。




(………永遠の別れ…)



これが運命だと言うのなら私はホントに神様を恨む。


恨んでも恨み足りないけれど、決して許したりなんてできない。



お願いだから誰か助けて。


私は誰にも置いていかれたくない。


誰も彼も、置き去りにして逝きたくもないの………



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