これを『運命の恋』と呼ばないで!
顔を上げると、品の良い笑みを浮かべてるお母さんと目が合った。
その顔と同じように、笑い返さないといけないだろうか。


困ったように目線を下げた。
1センチくらいの細さで並ぶ畳の目地を見やった。


「こんな可愛らしい人と付き合ってたならもっと早く紹介してくれれば良かったのに」


残念そうな声を出される。
先輩のお母さんにどんな顔を向けたらいいのか分からない。

戸惑う私の肩を先輩が抱く。
その温もりに気づき、目線を上向きにした。


「実は再会したのはこの間なんだ。お互い相手のことが忘れられずにいて、付き合うことにしたのもその時からで……」


嘘ばかりを重ねる先輩のことを斜め下から伺う。
肩を抱いてる手の指が、微かに震えてる様な気もする。


「お前にそんな相手がいると知ってたら、今回の話も持ってこなかったんだが」


お父さんが口を開き、「まぁお入り」と促される。


座るのは気がひける。
でも、逃げ出すこともできない。

弱りつつも断りきれず座敷に上がった。
まともにご両親の顔も見れず、やっぱり俯いてしまった。



「お父さん、あのお話どうしましょう」


お母さんが問いかける。

「うーん」…と唸った後、お父さんは先輩に尋ねた。


「理斗はその人と一緒になるつもりなのか?」


「一緒になる」という言葉にビクつく。
そんな関係でもないと正直に話して欲しい。


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