これを『運命の恋』と呼ばないで!
「まだ何も考えてないよ」


先輩の言葉にホッとする。
漏れそうで漏らされない息を静かに呑み込んだ。


「そうよね、最近付き合いだしたばかりだものね」

「じゃあ、あの話は進めてもいいか」


「父さん!」


先輩が珍しく声を上げた。
「あの話」の意味が見えず、チラチラと視線を注いだ。


「あの話は断ってくれよ。僕にはナッちゃんがいるし、この店もまだ始まったばかりだし」


必死な感じがする。
先輩には、嘘をつかなければならない理由が何かあるんだろうか。



(やだな……こんなの落ち着かない……)


口を挟むのもいけない気がする。
こんな調子で、いつまでもここにいるのも困る。



「あの…先輩……(そろそろ解放してくれませんか?嘘は止めにしましょうよ……)」


口ごもって目を見た。
先輩は私の気持ちを汲んだのか、目の前にいる人達に視線を戻した。


「これから二人で食事に行く約束をしていて。悪いけど予約の時間が迫ってるから行くよ」


機転を効かせる。
こういう嘘なら少しくらい大目にみよう。


「別に今日でなくてもいいだろう」


お父さんの言葉に冷や汗が出る。でも、お母さんは直ぐに承知した。


「じゃあ次の機会にでも話しましょう」


ねっ?…と優しい顔して問われる。
「はい」とは言いたくないけど、「いいえ」はもっと言いにくい。


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