これを『運命の恋』と呼ばないで!
「はい…是非……」


是非は余計だった。
先輩のお母さんはニコッと微笑み、私に向けてこんな言葉を言った。


「今度はご両親にも会ってみたいわ。息子を宜しくって言っておきたいし」


「母さん!」


照れくさそうな先輩にも弱る。
チクチクと胸を刺されながら、そそくさと表へ出た。





「ごめん、ナッちゃん」


申し訳なさそうに先輩が謝った。


「一体どういうことなんですか!?」


腹が立った様に聞き返す。


「実は……」


歩きながら話し始めた。
先輩は言葉を選びながら嘘をついた理由を教えてくれた。



「僕の実家は老舗の漬物屋で、代々酒粕を使った漬け物を作ってるんだけど…」

「粕漬け?奈良漬みたいなものですね」

「うん、ウリ以外にも大根とか人参とか……季節の野菜を漬けて売ってる」

「へぇー美味しそう」


思い出してみれば、私はまだ夕飯も食べてない。
グーッとお腹が鳴りそうな気がして、慌てて腹筋に力を入れた。


「漬物は何処へ行っても買える代物だし、地元だけで細々と商売をしていては売り上げ自体は上がらない。

一生の仕事としてやるならやり甲斐のある方がいい。 

今のまま地元の人達だけに愛される店でいるよりかは、多くの人達にうちの漬物を味わって欲しいと思ってるんだ」


「それでこっちに出店を?」

「うん。この辺りなら地理も知ってるし、飲み屋街の近くにオープンすれば売上も増えると思った」

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