これを『運命の恋』と呼ばないで!
先輩の考えてることはある意味正しい。
確かにここなら立地としてはいい線を行くと思う。


「でも、僕がこの店を始めたら本店を継ぐ者がいない。困った父さんは見合いをさせることを思いついた。

相手は地元の信用金庫の頭取の娘で、高校時代の後輩にもあたる子だから弱った」


「それで私に彼女役を?」

「うん、両親が来る前にお願いしようかと思ってたんだけど、先に向こうが来てしまって」

「すみません。私が遅かったからですね……」


行きたくなくてノロノロと残業をしてしまった。
こんなことなら定時に上がってさえいれば良かった。


「ナッちゃんの責任じゃないよ。僕が昨日電話で言えば良かったんだ」


嘘に巻き込んでごめん…と謝られた。
いえ…と短く答え、暫く無言でいた。





「ナッちゃん」


声に振り向いた。
大学時代から変わらない面差しをした人は、嬉しそうな笑顔を見せた。


「僕は今でもナッちゃんが好きだよ。お見合いのことがなくても君と付き合いたいと思う」


電話番号を変えずにいたのは、私からの連絡を待ってたからだと言われた。

私が番号を変えなかったのも、ある意味、先輩からの連絡が欲しかったせいもある。


……でも、あの頃と今は違う。

< 122 / 218 >

この作品をシェア

pagetop