これを『運命の恋』と呼ばないで!
無責任な優しさを示されてもいい。

それを持ったまま、この人生が終わってもいいと思えるからーー。



「好きな人って、この間割って入ってきた人のこと?」


握ってた力を緩められた。
その隙に手を抜き取り、先輩に目を向けた。



「そうです」


もう隠したりしない。
私は青空奏汰が好きなんだ。


「懐石料理のお店で話をした鬼みたいな先輩があの人です……青空奏汰さんと言います」

「青空彼方?どっか遠くへ行きそうな名前だね」


遠くへ行くのは当たってる。
でも、遠くへ行くのは先輩じゃなく私の方だ。


「うん……今度海外勤務が決まったの。それを昨日知ってショックで仕方なくて……」


「僕に慰めて欲しいと思った?」


ズキッと胸が痛む。
でも、正直に話そう。


「ごめんなさい……思いました……」


ヘタレだ私は。
どんなにボコボコにされても絶対に文句も言えない。


情けなくなって涙が溢れた。
その私を眺めてた先輩がボソッと一言呟いた。


「なんだ……やっぱりそんな関係だったんだ……」

「えっ!?」


思わず顔を上げる。

そんな関係って何!?
私は青空先輩とどんな関係でもないけど!?


フ…っと京塚先輩の顔が笑った。
笑ったように見えたけど、実は笑ってなかったのかもしれない。

ポケットから出されたハンカチで涙の粒を拭かれた。
その仕草を見ながら青空先輩のことを思い出した。



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