これを『運命の恋』と呼ばないで!
「俺がいなくなった後、お前がこの世からいなくなるんじゃないか思うと不安で仕様がない」

「私?」


パチパチと二、三度瞼を閉じる。
もしかしてこれは悪夢だろうか。




「イタッ!」


頬の肉を引っ張りすぎるくらいに抓った。
ヒリヒリと走る痛みが、現実だと物語ってる。


「何やってんだ一体」


抓った右頬に手を添えられた。


「これは……夢なんでしょうか?」


言葉を選ばず聞いてみた。


「間違いなく現実だ」


間髪入れず返事がある。



「まさか」

「まさかじゃねぇよ」


「現実にこんなこと起こる筈ないです」

「起こってるんだから信じろよ」


目の前にいる人が呆れる。
はぁーっと深い息を吐かれる。
その温もりが感じられ、じわっと涙が浮かんだ。


先輩の顔が困ってるようにも見える。
困らせた原因なんて思い浮かばないけど、やはり謝っておいた方がいい。



「すみません」


その言葉に反応された。


「何を謝ってるんだ?」


先輩の顔が近づいてくる。


「だって……何だか困ってるみたいだから……」


いつもと同じように見えるけど、やはり近づいてくる表情はいつもと違っていて。


「困ってなんかない。いつも心配ばっかしてる」


汐見先輩が言ってた通りのことを言われた。


涙が溢れ落ちそうになり、目尻の端にキスを落とされた。

慌てた私は両手で鼻と口を隠そうとしたけれど。


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