これを『運命の恋』と呼ばないで!
「隠すな。その鼻も唇も全部俺のものにする」


ぎゅっと手を掴まれた。
ビクッとする隙に近寄られ、ポン、ポン…と鼻の上と頬にキスが乗った。

そして、ゆっくりと囁いた。



「若山夏生が好きで仕様がない。お前も一緒に、連れて行きたい」


涙が溢れ落ちると同時に唇が重なった。

驚きで目を閉じることもできず、離れていく先輩の顔を見つめた。



「ハトみたいにまん丸な目しやがって」



口角を上げて先輩の頬が緩む。

照れくさそうに笑う目尻が下がって、そのまま私を抱きしめた。




「せん……ぱい………」



涙が混じった声は掠れて、それ以上の声は出せなくなってーーー




「なつみ……」



優しい声で名前を呼んでくれた。

たったそれだけのことなのに、胸の奥からあったかいものが込み上げてきて。






「先輩っ……!」


ぎゅっと手を回して温もりを確かめた。

抱きしめたまま、この人のことを捕まえたくて仕方なかったんだ…と教えられた。





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