これを『運命の恋』と呼ばないで!
「それは気にしないで。そういうことだから……じゃあまたね!」


急いで電話を切った。
残業したら先輩との初めての夜が来るなんて、口が裂けても話せやしない。


「帰さないからそのつもりで来いよ」


耳元で囁かれた甘い誘い。
空の向こうへ旅立つまでに、何度そんな時間が持てるだろう。


(結ばれてもお別れなんてツラい。でも、何もナシに別れるのはもっとヤダ)


一つ一つ、心と体に残していこう。
空の彼方へ先輩が行ってしまうまでに一緒の時間を重ねるんだ。



「あーもう、なんで涙なんか出るの。幸せな気分なのに……」


思いが通じて実ったと言うのに胸はキリキリと痛むばかり。
こんなに苦しくなるくらいなら、今夜ずっと一緒にいれば良かった。



(先輩……会いたい……)


時間が惜しい。
焦れば焦るほど先輩との距離を感じる。



(早く夜が明けて朝になって。明日が来れば、またあの笑顔に会えるからーーー)



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