これを『運命の恋』と呼ばないで!
旅立つ日
次の日を無事に迎え、暗い気分でオフィスへ向かった。

更衣室で制服に着替え、トボトボと廊下を歩く。

昨夜は寝たり起きたりを繰り返して、あまり熟睡した気がしなかった。

恋は実ったと言うのに、まるで失恋した様な気持ちでいるのは何故なんだろう。



(眠け覚し買ってこ……)


休憩スペースのある角を曲がって胸が高鳴る。



「青空先輩……」


日の差す窓辺に見慣れた人を見つける。
片手にコーヒーの缶。
その口から立ち昇る淡い湯気と香り。

これも全部記憶に残しておこう。
今日から全部が思い出なるんだから。


「やっと来たか。おはよう」


先輩に「おはよう」を言ってもらえる日が来るんなんて夢みたいだ。
これまではムッとした顔しか見なかった気がするのに。


「おはようございます」


頭を下げて近寄ると、ぎゅっと抱きしめられた。


「あ、あの、先輩……」


胸が震える。
こんなところを誰かに見られたらどうするんだ。


「なつみに会いたくて仕方なかった。昨夜あっさり帰したこと、かなり後悔した」

「先輩」


それは私もおんなじ。
だから、今日は何があってもいい様に準備してきてる。


「お前、今日も酷い顔だな」


体を離して覗き込まれる。


「酷いだけは余計です」

(眠りが浅かったんだから仕方ないじゃない)


「明日はもっと酷い顔になるかもしれねぇぞ。覚悟しとけよ」


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