これを『運命の恋』と呼ばないで!
間近で言われる言葉に胸が早鳴る。
コク…っと頷くと先輩が満面の笑みを見せた。


「可愛いヤツ」


そのまま胸にしまい込まれて、髪の毛にキスが落とされる。
背中に手を伸ばして抱きついてしまいたいけれど……


「先輩、人が来たら困るから」


鬼先輩と叱られるダメ後輩。
その関係しか皆は知らない。


「お前はどうでもいいこと気にするな」


つまらねぇな…と離される。
これまでは私の方が追いすがってたのに。



別々に総務へ向かい、仕事を始める。
気にせずにいようと思っても、到底ムリな相談だ。


大好きな人は目の前で仕事をしてる。
これまでとは違って時々目が合う。

恥ずかしさと切なさも混じって困惑する。
じっと見ておきたい気分に襲われて、振り払うにも時間がかかった。

こんな環境下で仕事なんて捗る訳がない。
気がつくと退社時間になっていて、皆が着々と上がり始めた。




「ナッちゃんお先に」


ニコッと笑みを見せて汐見先輩が挨拶した。


「お疲れ様でした。今日もいろいろ教えて頂いて有難うございました」


迷うところは全部アドバイスしてもらった。
青空先輩に聞くと胸が高鳴って仕事になりそうになかったからだ。


「私で役に立つならいつでも聞いて。じゃまた明日ね」

「はい、また」


見送る背中が嬉しそうだ。
今日は部長カレシとデートなのかもしれない。


< 143 / 218 >

この作品をシェア

pagetop