これを『運命の恋』と呼ばないで!
『うちの部署にどうにも役立たずな社員が一人いてね。君に預けるから厳しく指導してやってくれよ』


「総務でも切れ者だと言われてるから大丈夫だろ?って感じでさ。気楽な言い方して何だよと思いながらお前を迎え入れた」


先輩は悔しそうな言い方をしてた。私はそれを聞いて何だかスゴく落ち込んだ。


「すみません。厄介者のお世話を頼まれたんですね」


もう少し有能な人材ならそんな気遣いをさせずに済んだかもしれない。
けれど、私は何処へ行っても役に立たない人間だ。


「俺はお前を厄介者だとは思ったことは一度もねぇぞ。怒られても叱られても弱音は吐かねぇし、手抜きをしてるのも見たことがねぇから」


声が聞こえて見上げた。
先輩の目は笑っていて、目尻が少しだけ下がっている。


「なつみはいつも要領が悪くて自分だけで何とかしようとムリしてる。だから、失敗も増えるし先へも進まない。俺に頼ればいいのにな…って、つい気にする癖がついてさ」


「先輩……」


そんなことを知らなかった。
いつもいつも睨まれてばかりいるのかと思ってた。


「汐見が俺の目線に気づいて『心配なら手伝ってやればいいじゃない』と揶揄うもんだから余計に厳しくあたってしまってごめん。俺がいなくなったら今日みたいに汐見を頼れよ」


「い……イヤです!」


「なつみ?」


私が頼りたいのは、今も先も横にいる人だけだ。
何処へも行かず、私の前で仕事をし続けて欲しい。


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