これを『運命の恋』と呼ばないで!
腫れぼったい瞼のままオフィスへ向かった。
私よりも一足早く出社した人は、既にデスク上の仕事を幾つか終わらせてる。



「おはよう」


朝交わしたばかりの言葉を言い直された。


「おはようございます」


照れながら挨拶を返す。
身体中のあちこちに残ってる跡を思い出し、きゅっと身が小さくなった。



「ナッちゃん、おはよう」


戸惑ってるところへ汐見先輩が入ってきた。


「お、おはようございます!」


後ろめたくもないのにドギマギする。


「あれ?顔赤いけど平気?熱あるんじゃない?」


額に伸ばそうとする汐見先輩の手を退けた。


「へ、平気です。熱なんてありません」


必要以上に近づかれると困る。
見えそうで見えない位置に付けられた跡がバレてしまいそうで怖い。


「そう?ならいいけど」


ニコッと笑って通り過ぎる。

朝から上機嫌の汐見先輩。
何かいいことがあったみたいだ。



(あっ…)


キラリと光るモノを見つけた。
左手の薬指に光るブルーの宝石。


「し……汐見先輩」


思わず聞き出しそうになって、慌てて口を押さえた。


「何?」


(それ、どうしたんですか?)


目線をチラチラと指輪に向けた。
汐見先輩は私の視線に気づき、照れくさそうな顔をした。


フッ…と笑みを浮かべて逃げる。
部長カレシから貰ったらしい薬指の宝石は、直ぐに他の子に見つかって問い質されてた。


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