これを『運命の恋』と呼ばないで!
子供みたいな返事をして外へ出る。


泣き出しそうになるのを我慢して、トボトボと廊下を歩く。

叱られてもないのに落ち込むっていうのはどうなんだろう。

零れ落ちてきそうな涙を堪えてひたすら前を見て歩いた。




「若山、ちょっと待て」


後ろから追いかけてきた人に気づいて立ち止まった。
靴音を響かせてきた人は、私の前に回り込んだ。



「話があるから後で会おう。駅前のコーヒー屋で待っててくれよ」

「話……?」


何?
期待できそうなこと?


「いいか?」


不安げな目をする。
私の表情が優れてないからだろうか。


「いいです。…分かりました」


返事をするのに間がいった。
先輩は冴えない顔つきをしながらも「じゃ後で」と走り去って行った。



(どういうんだろう。この関係って)


先輩と後輩の枠は越えてしまった。
でも、恋人同士になったとも言い難い。


更衣室へ入り、モジモジしながら服を着替えて社外へ出る。

定時に上がると外が明るい。
日没までにはまだ時間もあるんだろうと思う。



(何処へ行こうか)


早く着いてもいけないし、智花のお店に行くのもマズい。
今日は首筋にも跡が付けられてる。
髪を触られたりしたら何かと説明が厄介だ。



何気なく目標もなく歩き始めた。
ボンヤリと歩み進めていると、目の前に知った人が現れた。



「ナッちゃん」


「京塚先輩」


< 155 / 218 >

この作品をシェア

pagetop