これを『運命の恋』と呼ばないで!
今一番会いづらい人。
顔を見るのも気まずくて、直ぐに目線を下げた。


「こんばんは…」


丸っぽい声に反応して頭をチョイ下げした。


「ど、どうも」


なんと言って言葉を返せばいいのか。


「この間はごめんよ。あの後、両親にはきちんと説明したから」


その言葉を聞いて顔を上げた。
先輩は笑みを作り、優しい顔を見せてくれた。


「店を続けたいから見合いは見送らせて欲しいと頼んだ。両親は不満そうだったけど、暫くせずに済みそうだよ」


「そうですか。良かったですね」


嘘の片棒を担いだからホッとする。
先輩は私の表情を確かめて改まって聞き返した。


「君の方はどう?想いは届いた?」

「え…あの……」


届いたことは届いた。でも、未来は見えてこない。


「浮かない顔だね」


元カレだからバレるのは早い。
暗い気持ちを押し隠し、わざと明るく振る舞った。


「そんなことないですよ。それなりに元気です!」


ガッツポーズを見せて笑う。
伺うような人の目線はウソを簡単に見抜いた。


「そう?それにしては泣いた様な目元だよ」


どうしてそんなに鋭いんだ。
今朝から前にいた人は、何も言わずに知らん顔してたのに。


「泣いてなんかないですよ。京塚先輩の気のせい」


話してるとヤバい。
先輩の優しさに引きづられて、どんどん落ち込んでいく。



「ごめんなさい。私、約束があるので」


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