これを『運命の恋』と呼ばないで!
「先輩」


歩みを速める人に呼びかける。


「待って下さい。足が…速すぎて……」


もつれそうな感じがする。
私の足元に気づいて、先輩の歩みが止まった。




「ごめん。ちょっとムカついてたから」


解放されてホッとする。
でも、直ぐに抱きしめられた。


「なつみが好きだ。向こうへ連れて行きたい」


さっきよりも力を込めて抱かれる。
震えそうな身を預けると、大事そうに包み込まれた。



「……でも、連れて行くのも不安なんだ」


離れていて何かがあっても不安なら連れて行くのも怖い。

先輩の口から正直な言葉が飛び出した。


「慣れない向こうの暮らしでなつみに何かあったらと思うと恐ろしい。俺には一日中見ておける暇なんてないと思うし、何よりお前自身が一番悩むだろうと思う。

そう考えると怖くなって、一緒に行こうって言えなくなった。

……でも、焦ってるのも確かなんだ。日は近づくし、離せばお前が遠くに行ってしまいそうで……」


答えが見つからずに迷ってたのは先輩も同じだったのか。
何も考えず、私を抱いた訳じゃなかったんだ。



「先輩……私は……」


貴方の側にいて、顔さえ見れればいい。
例え、会社に行ってる間離れてても、寝顔しか見れなくてもいい。


近くにいたい。
手の届く場所で生きていたい。


だから、ねぇ。



「お願い。私を一緒に連れてって下さい」


< 159 / 218 >

この作品をシェア

pagetop