これを『運命の恋』と呼ばないで！
「先輩の話だと口は悪いけど根は何もないから大丈夫って。だから、それを信じようと思う」

「うん。とにかくナツらしくしてね」


燥ぎたそうな声の主と電話を切ってホッとする。
一抹の不安を隠したまま、１階にあるレストランの扉を開けた。



「いらっしゃいませ」


シェフの鶴井君はツンと立たせた髪の毛をバンダナで隠して現れた。


「こんばんは。シャンパンを一杯頼んでいい？」

「シャンパン？珍しいね。何かお祝い事でもあった？」

「うん。親友が結婚するらしいの」

「結婚！？もしかしていつも一緒に来る子？」

「そう。海外赴任の決まったオフィスの先輩と一緒に行こうと決めたみたい」


メニューを広げながら答え、シャンパンに合う物を幾つか頼んだ。


「寂しくなるね」


鶴井君の声に振り返る。


「そうね。でも、永遠の別れじゃないから」


自分の言葉を信じながら微笑んだ。
鶴井君は「一緒に祝うよ」と言い、早々と店を閉めだした。






「ねぇ、トモちゃん」


シャンパンをボトルからグラスへ注ぎながら口を開いた。


「……なぁに？」


３杯目のシャンパンを口に含んで飲み込む。



「あのさ。僕と一緒に暮らさない？」


バンダナを外した人は、照れくさそうに鼻の頭を掻いた。


「前にルームシェア探してるって言ってただろ？僕じゃダメかな？」


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