これを『運命の恋』と呼ばないで!
弧を描いた教会の中は、真っ白いユリの香りで満たされていた。

新婦側の列席者として招かられた私の隣には同居人の鶴井君が座り、その前席には会社の女性先輩と部長さんが並んで腰掛けている。

それぞれの親族は着物やらドレスやらを身に纏い、ウキウキとしながら式が始まるのを待っていた。



「あの人がナツミちゃんの相手?」


白い手袋を握りしめた男性が現れた。
薄いシルバーのモーニングにはラメが入り、キラキラと光り輝いてる。


「そうよ。青空さんて言うの」

「青空?珍しい苗字だね」

「うん。だからナツは今日から『青空夏生』になるのよね」


入籍は既に済ませてると聞いた。
だからもう『青空夏生』と名乗ってる筈だ。


「あおぞら なつみ…か。なんか晴れ晴れしい感じがするね」

「でしょ?ナツらしい名前よね!」


苗字が変われば人生が変わる、ってよく言う。

クレハさんの占いが全て当たるとは思ってないけど、結婚して名前が変わって、訪れてた死期も何処かへ遠退いて行って欲しい。



「……あ、始まりそうだよ」


神父さまが祭壇へ上がった。
二、三言、言葉を交わして、オルガンの音色が響きだす。


ワンフレーズが終わった後、教会の扉が開かれた。
ナツはお父さんに手を引かれて、真っ直ぐゆっくりと歩き出した。



ベールに覆われた顔は緊張してるみたいだった。

パール系のピンクに唇を塗ったのは私。

総レースのドレスを選んだと聞いて、それに似合うメイクを考え続けてきた。


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