これを『運命の恋』と呼ばないで!
青空先輩の顔は、一般的に言うならイケメンの部類に入ると思う。

もしも私が出来の悪くない社員で何らかのトラブルが発生した結果、二人で残業をしているのだとしたら、この状況は凄くラッキーで有難いのだろうと思うけれど。


「バカ山、人の顔を見てないで仕事しろ!」

「………(はいはい)」


声には出さずに仕事を再開する。
身の程を知ってるからこそ、鬼との残業にはときめかない。だから、考えるのですら虚しくなる。


パラッと書類を捲り直す。
今やっているのは実績計算書のまとめ。

社員全員の勤務日数と時間が合っているかどうかを確かめているところだ。


(あーあ、この計算書のまとめって今夜中に終わるのかなぁ)


声に出せないセリフを心の中で呟く。
私の仕事を手伝ってくれるのは有難いけれど、先輩はいつまでオフィスに残っているつもりだろう。


(日付が変わっても一緒にいるのだけはヤダな……)


それまでに今やっている仕事を半分くらい終わらせて帰りたい。
それくらいやっておかないと、後の仕事も残っているから大変だ。


「はぁ……」


つい息を漏らしてしまった。


「バカ山」

「は、はいぃ!」


しまった。聞こえた!?


「残業は21時までで止めにしよう」


キー操作の音が止み、先輩が口にした。


「残り1時間だから集中して仕事を進めろよ」


(えっ!?何!?どうしたのいきなり)


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