これを『運命の恋』と呼ばないで!
「キレイな髪ですね」

「そうですか?」


ガーゼの隙間から声が聞こえた。


「そうですよ。指通りいいし、ツルツルしてて気持ちいいです」


感想を素直に述べると、小さな声でお礼を言われた。


「ありがとうございます」


その言い方がちっとも嬉しそうじゃなかった。
心に引っ掛かるものを感じながら鏡の前に案内した。



「どの位の長さに切りますか?」


ブロッキングしつつ尋ねると、ナツはケープの隙間から覗いてた手をギュッと握りしめてこう言った。


「思いきり短くして下さい。ベリーショートでも構いませんから!」


強い口調に驚いて、鏡に映る顔を見てしまった。
鏡越しに見えていたナツは、ギュッと唇を噛み締めていた。



「こんなキレイな髪の毛をベリーショートにするんですか!?」


勿体ない気がして聞き返すと、コクッと首を縦に振った。


「髪の毛と一緒に切り捨てたい思い出があるんです。だから、思い切ってお願いします!」



「……その思い出って何ですか?」


余計なことだと思ったけど、言いなりに切るのは間違ってるような気がした。


「そんなのアナタに話すべきことじゃないと思いますけど?」


キッと目を吊り上げて睨まれた。
それまでの大人しそうな雰囲気は吹き飛び、全然別人の人格が滲み出てきた。


「私はここに髪を切りに来たの。言う通りにしてくれないのなら別の人に変わって下さい」


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