これを『運命の恋』と呼ばないで!
「別れて直ぐは仕方ないと諦めてたんですが、時間が経てば経つ程、思い出してしまって……」


髪を優しく撫でられたことやキレイだね…と褒められたこと、毛先を摘んで遊ばれたことやぐしゃぐしゃにされながら笑ってた顔……


「髪を見る度に思い出さなくてもいいことばかり浮かんでくるの。それが堪らなくイヤになってしまって………ゴメンなさい、アナタは私の髪を褒めてくれたのに……」


一粒零れ落ちた雫は筋になって頬を伝った。

その時のナツは、可愛いって言うよりキレイ…って雰囲気だった。



「イイですよ。私も要らないことを聞きましたね」


お互い様です…と謝ると、目を上げたナツはホッとした様な表情に変わった。


「さっき頼んだベリーショート、変更してもいいですか?せっかく褒めてもらったからセミロング辺りで止めにしておきたいんですけど」

「イイですよ。最初からそのつもりで切ってました」

「えっ!?」


目を丸く見開いてる表情は、これまでで一番可愛いと思えた。
気分が軽くなってきて、お互い自己紹介を始めた。


「私、藤山智花と言います。この店で美容師見習いをしながら専門学校に通っていて、シャンプーカットとマッサージを任されてるの」

「マッサージかぁ。後からやってもらっていいですか?…あっ、私は若山夏生と言います。大学の3年生です」

「大学生ね、専攻は何?」


話をしながらカットを進め、再びシャンプー台についてもらった時……

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