これを『運命の恋』と呼ばないで!
「商品開発部へ異動?」


今年度入ってすぐ、俺は総務部長の小林さんに呼び出された。


「そうだ。営業部長の山崎さんから是非君の力を借りたいと頼まれてね」


商品開発部というのは営業部門の一つにあたる。
自社ブランド商品の開発に力を入れている我が社では、この最近、海外支社への異動が相次いでいた。


「俺は総務の経験しかありませんよ?向こうへ行って役に立てるとは思えませんが」


事務仕事をする者なら向こうにも結構いるだろう。
自分が行って役に立てることなどないように思えたがーー。


「山崎さんの話では、君に向こうの社員教育を願いたいそうだ」

「社員教育?」

「そう。工場勤務をする現地社員の教育らしい。君なら英語も堪能だし、若山さんの件でも一目置かれている。向こうへ行って、ビシビシと厳しい指導を行って欲しいそうなんだ」

「厳しい指導って…俺は別に若山に対して厳しい指導はしてませんよ?」


要領の悪いあいつに対して、失敗する前に聞けと言いたくても言えない状況下にあるだけだ。


「それでもよく怒ってるところを目にしてたらしいよ。お陰で若山さんもこの最近頑張って仕事するようになったし、その辺のことを認められてだと僕は思うけど?」


引き受けてみたらどうかと勧められた。
「少しだけ考えさせて下さい」とお願いして、課内へ戻ってみると……


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