これを『運命の恋』と呼ばないで!
(若山が俺を好き?)


そんな風に見えたことは一度もない。
占い師の言葉に翻弄され、血迷った挙句にプロポーズをされたことはあったけれど。


(まさか、あれも本気で?)


あの時は俺が断る理由を考えながら喋った言葉にショックを受けて、「もういいです」と取り下げてしまった。

あれ以来、若山は結婚のことは口にしない。
占い師の言う通りに死期が迫ってるんだとしたら、きっと怖い思いをしてるだろうに。



「助けて!」


貧血を起こして倒れた若山を資料室に運んだ時、魘されながら叫んだ。
目覚めた若山は冷や汗をかき、苦しそうな呼吸を繰り返していた。


「大丈夫か?」


さすがに心配になって声をかけると、ぼぅっとした眼差しに見つめられて。



ドクッと胸の奥が鳴り響いた。

若山の額の汗を拭きながらドクドクと脈打つのが分かった。



(……もしかしたら、汐見の言う通りか?)


否定するのも憚られるような気がしていた。
顔色の悪いまま仕事をする若山を元気づけようと思い、汐見から教えられた漬物屋のランチに誘った。

そこで嬉しそうにショーケースを眺める若山の顔を見て思ったんだ。


(こいつ、可愛いな)……って。


若山の箸で摘まれた漬物にパクついたのは単なる勘違いだ。

でも、それがキッカケで意識し始めてしまった。





「汐見の言ってた通りだと思う」


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