これを『運命の恋』と呼ばないで!
謝ってる相手は背の高い体格の良さそうな男だった。

手でも出されたら大変だと思い、思わず間に入ってしまった。


「俺の彼女が何かしましたか?」



あれは今思い出しても顔が熱くなる。
誤解だと分かった後で、若山が嬉しそうについてきたのも恥ずかしかった。



(でも、あの一件で、もしかしたら若山も俺のことが好きなのかなって思えたなぁ)


退社時に渡した豚バラ串を見て嬉しそうにしていた。
その顔が見れただけで、何だか気分よく残業ができた。




週明けに異動の発表があることは予め聞かされていた。

案の定、いろんな社員からお祝いやら妬みやらを聞かされた後、若山が走り込んできて怒鳴った。



「異動って、どういうことですか!」


見ての通りだよ…と言ってしまいたくなったが、チラッと目線を送ってきた汐見から出て話した方がいいと諭されて。


「ちょっと来い」


連れて出て正解だった。
まさか、あんなに泣かれるとは思ってもいなかった。


「私を指導するのが嫌になったんですか!?」


泣きがなら聞く若山が可愛くて仕方ねぇなって気がした。

こいつを連れて行けたらいいのにって、その時初めて思った。


「青空先輩の顔が見れなくなるなら清々する!」


怒鳴って逃げた若山を追いかけたくても、オフィス内では目立ち過ぎてできない。

本社からは呼び出されるし、転勤してからのことや住む場所の選択とかで翌日もオフィスへは顔を出せなかった。

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