これを『運命の恋』と呼ばないで!
(今夜は早く寝よう。それに限る)


うんうんと頷きながらデスク上に散らばった書類を片付け始める。


「おい、バカ山なつみ」


「だから、若山夏生ですってば!」


否定しつつ目線を上向きにする。

声をかけた青空先輩は既に自分のデスクの片付けを済ませ、椅子の背に掛けていたカーキ色のジャケットを羽織ろうとしていた。



「飯食いに行くぞ」

「はい、どうぞ」

「お前も付き合え」

「えっ……」

(今なんて?)


「腹減ったから飯食いに行く。お前も付き合え」

(えっ!?ええっ!?い、嫌ですぅぅぅ!!!)


……などと逆らったら後が恐いので。


「…わ、分かりました。ご一緒します……」




(ーーーああ、神様。これは何の天罰ですか!?)


午後9時を過ぎて牛丼屋のカウンターに並んで座り、苦手な鬼先輩と二人で夕食を食べる羽目になるなんて。



「お前、並で良かったのか?」


注文を告げた後になって先輩から聞かれた。


「じ、上等です!」


それ以上の量を20代前半の女子が食べるか!


「お新香食うか?」

「あ…それは頂きます」


カウンター前のケースを開けて取り出す。


「サラダは?」

「先輩の奢りなら食べてもいいけど」

「よし、奢ってやるから食え」

「へへっ、ラッキー!」


たまには残業もいいか…と思い直す。
現金だと言われても空腹にはやっぱり勝てない。

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