これを『運命の恋』と呼ばないで!
『君には営業事務の才能がない。計算上のミスは目立つし抜けが多いと評判だ。それで総務へ行って、鍛え直してもらった方がいいと判断した』


『え……』


「寝耳に水」ってこのことだ。

確かに私は仕事上のミスが多い。
書類作成にも時間がかかるし、計算間違いや誤字脱字が多過ぎる…と指摘は何度も受けてきた。

しかし、この最近は自分でも努力して、何とか人並みにまでにミスを減らしてきたつもりでいたのに。


『君の知らないところで皆がフォローをし続けてきたんだ。けれど、さすがに全員堪忍袋の緒が切れてしまってね』


そんなことちっとも知らなかった。
誰一人として私の仕事をフォローしているなんて言わなかったから。



『それで異動させられるんですか?』

……と聞く前に部長から


『だから総務で鍛え直して貰って』

……と言い渡されてしまった。


『失望』という二文字を抱えて部署を移り、デスクに荷物を置いた途端、待ち構えていたのが私の教育係でイヤミばかりを言う先輩の青空奏汰でーー。



『「バカ山 なつみ」っていうのはお前か?』


(は?)


失礼な呼び方をするな…と振り向いてみたら、そこにいたのは声色とは違って切れ長の眼差しをした素敵な男性。

筋の通った鼻は小鼻も小さくシュッとしていて、ほんの少しだけ「への字」に曲がった唇は厚くもないし薄くもない。

髪の毛は柔らかそうな感じで軽くウエーブが掛かり、濃いナッツ色した肌は事務職には思えない程、健康的な雰囲気を漂わせていた。

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