これを『運命の恋』と呼ばないで!
「なつみ」


口元を手で覆ったままの先輩がこっちを向いた。
茫然としてる私の額に、自分のおでこをくっ付けてきた。


「熱はないな。一体どんな夢を見たんだ?」


問い質す先輩にノロノロと話し始めた。
先輩は私が自動車事故をしたのは知ってたけど、鹿にぶつかったとまでは知らない。


呆れた顔つきで聞いていた。
一通りの話をした後、こんなことを言いだした。


「お前、よほどその時怖かったんだな。雄鹿は神様の化身だとも言われるし、夢の通りに死んでしまったんだとしたら、お前に魂が取り憑いてたとしても不思議じゃねぇな」


クレハさんに会った時、「邪気を祓いました」と言われた。
あの時言ってた邪気が鹿のことだとしたら、私は今も取り憑かれているんだろうか。


「もう忘れろ。その鹿だってすっかり成仏してるよ」


大丈夫だ…と抱き寄せられる。
胸の中に収まりながら、先輩の心音を耳にした。



(良かった……生きてる………)


手も足も温かい。
ちゃんと息もしている。




「奏汰………」


『さん』をつけるのを忘れた。

私を見下ろしてた人は笑って、瞼の上にキスをくれた。



「続きはホテルでな」


臆面もなくそう言った先輩だったけど、フライトを終えた途端に重度の飛行機酔いを発症して、空港内の病院に運び込まれた。




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