これを『運命の恋』と呼ばないで!
クレハさんの言うように、強い味方になる人なんて何処にいるよ。
私の周りにいる男性と言ったら、会社以外では知り合うキッカケすらも転がってないのに。


「はぁ……」


空っぽになった丼の底を見ても出るのは溜息ばかり。

私の最後の晩餐は、誰と何処で何を食べているのだろう……



「食ったか?」


お茶を飲んでた鬼が聞いてきた。


「…はい。ご馳走様でした」


奢ってもらったからお礼を言う。


「安いもんだから気にするな。それよりも早く家に帰って休め。明日も多分残業になるから」


いつもに比べて口調が穏やかな気がするのは気のせいだろう。
空腹が満たされて、先輩自身が落ち着いてるからだ。


「帰るぞ」


椅子を回転して背を向ける。


「は、はい」


慌てて自分も椅子を回した。


「あっ!」

回転椅子の足置き部分に靴のヒールが引っ掛かった。
座ったままの格好で前のめりに倒れそうになる。


「危ねっ…!」


横をすり抜けようとしていた鬼の腕にすがった。
先輩の上半身に凭れ込むようにして何とか体が支えられてる。


「す、すみません!」


直ぐに体を起き上がらせて謝る。
先輩はホッとした様な息を吐き、私の姿勢を整えた。


「お前は本当に何をやってもそそっかしいな」


見間違いでもなく笑ってる。

その顔が間近過ぎて、信じられないくらいに驚いた。


「なんて顔してるんだ」


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