これを『運命の恋』と呼ばないで!
牛丼屋でもそうだったけど、一歩間違えれば、私は壁や床に頭を打ち付けてしまいそうな状況だった訳で。

外では上から植木鉢が落っこちてきて、それが頭に直撃しなかったのは、ある意味奇跡みたいなもんで。

もしも、それらが回避できた理由が先輩と一緒だったからという風に考えてみれば、今しがた私が願ったプロポーズの意味は、至極当然だと言ってもいい筈なのに……



「悪いが俺は頭の悪い女は嫌いだ」


グサッと突き刺さる言葉を吐いて、鬼先輩はもう一言付け足した。


「物覚えが悪い奴は一緒にいても疲れるだけだ」


(それ……私のことですか?)


…と聞く前に、モチロン自分のことだよね…と気がつく。


先輩は私のことが嫌い。
人柄とか性格じゃなく、頭が悪くて物覚えが悪いから嫌い。


あまりにもストレート過ぎる理由。


(そうか、だから私に対してはいつも鬼の形相だった訳か)


変なところで合点がいく。
いびられ続けてきた理由が分かった今、もう何も願うことはない。


「お前がどんな占いを信じようが構わない。勝手にすればいいし信じるなとも言えない。お前自身の人生はお前のもので、他の誰とも関係ないんだから」


(そうですよね……)


スラスラと出てくる言葉にぐうの音一つも吐けなくなる。
私の生死なんて、この鬼にはどうでもいいことなんだ。


「だけどな、バカ山…」

「もういいです。よく分かりました」

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