これを『運命の恋』と呼ばないで!
言い足らなさそうな先輩の口を遮った。
もうこれ以上、私の傷を深めないで欲しい。

先輩が私には興味もないと分かったし、無能な自分であることは言われなくても理解している。

ただ、本当に自分に死期が迫っているのだとしたら、一瞬でもいいから幸せになっておきたいと願っただけ。

今直ぐ結婚する相手と出会うのは無理だ。
だとしたら、目の前にいる人に頼ってみたいと思ってもいいだろう。

でも……


「バカなことを言ってすみませんでした。もう二度と、お願いすることなんてありませんから」


そう言いながら泣けてくるのは何故だ。

先輩に断られたのがショックなだけじゃない。

無能な自分のことを嫌いだと言われた。

それが一番悔しいんだ。


「……もう送って頂かなくて結構です。先輩の大切な時間を私の為に割かないで下さい」


グシっと鼻をかんで手の中にあるハンドタオルを握り潰した。


「この後はタクシーで帰りますから。そしたら先輩も安心でしょう?」


元より心配なんてされてない。
先輩はただ何かがあった時に、自分の責任だと言われるのが嫌なだけだ。


路上に向かって手を振り上げた。
反対側に止まっていたタクシーの運転手がそれに気づき、Uターンして寄ってくる。


「お夕食ご馳走様でした。このハンドタオルは今度洗ってお返します」


タクシーに乗り込むまでの間、先輩の顔は見れなかった。
後部座席に座り込み、ドアが閉まってからやっと外に目を向けた。


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