これを『運命の恋』と呼ばないで!
「何処まで行きますか?」


運転手の問いかけに自宅の住所を教え、涙で霞んだ視界に映る人を振り返る。

先輩は少しだけ反省している横顔を見せた。 
でも、それは私が目の前で初めて泣いたからだと思う。

無能な私が幾ら泣いたからって、先輩は痛くも痒くもない筈だ。
勝手に玉砕覚悟のプロポーズをして、これまた更に傷つく理由を教えられただけ。

無能なのは異動になる前から分かっていた。
ただ、そのことで人に嫌われるとは思いもしなかった。

無能なままでも毎日が無事終わればいいと思ってた。
それで安泰だと錯覚していた。


今夜、先輩にハッキリ言われてよく分かった。

私は営業ニ課の人達に、きっと嫌われていたんだろうと思う。
だけど、部長はそうとは言えず、「鍛え直して貰いなさい」と通達をしてきたんだ。


でも、総務でもやっぱり嫌われていて、中でも一番世話をかけている人にそれを教えてもらった。


(結局、何処へ行ってもお荷物なんだ)


役にも立たないガラクタとおんなじ。
本当はリストラされても文句の言えない存在。

今までよく雇ってもらえてたと思う。
本当に配属先の部長達には、お礼を言わなければいけないだろう。

そして、何よりずっと世話をし続けてきてくれた先輩。


……ごめんなさい。

こんな無能な人材の為に、貴方の貴重な時間を沢山使わせてしまった。

許して下さい。

この監査が終わったら私、思いきって行動に移しますから………


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