これを『運命の恋』と呼ばないで!
なのに、今夜はまた眠れない。
こうしてる間にも死は近づいてくるかもしれない。

そして、婚期はどんどん遠ざかっていく。


(怖いな…)


自分が死ぬ時のことなんて考えたくてしている訳じゃない。

でも、あの時のクレハさんの顔が忘れられない。

智花が本当に私に死期が近づいてるのかと聞き直した時………



じっ…と黙って顔を見つめられた。

ほんの一瞬だったけど、私ではなく、何処か遠くを見ている様な眼差しだった。


「今のところは…」と言われた言葉は耳から離れてくれない。

血迷って先輩に逆プロポーズをした理由も、あの場にいた私と智花くらいにしか理解できないだろう。


オフィスで先輩と和解した後、昨日よりは早く仕事が片付いて家に帰った。
青空先輩は「何かあるといけないから寄り道はせずに真っ直ぐ帰れ」と言った。

その言葉に苦笑しつつも真っ直ぐに帰宅して部屋のドアを開けてみると、室内には柔軟剤の良い香りが充満していて。

窓辺に干していたハンドタオルのせいだと気づいた。
昨夜、先輩に手渡された物を洗濯して、朝干して出かけたんだった。

これを貸してくれた時の先輩は紳士だった。
牛丼屋でもさり気なく手を取ってくれたし、通りの端に避ける時もさっと腰に手を当てて連れて行かれた。


言葉尻は不器用で口も悪いところがあったりするけど、総体的には憎めない。
今夜みたいに素直に謝られたりすると、余計でも気持ちが乱される。





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