これを『運命の恋』と呼ばないで!
結婚相手なんてそこら辺に簡単に転がってるもんじゃない。
詰まりは転職と一緒で、「その気」がないと見つからないんだ。


「あーあ。あの時、先輩が一言『いいぞ』と言ってくれたら良かったのに」


あの先輩なら結婚相手にはピッタリだと思う。
「彼です」と言って、親にも紹介できる。

仕事もできるし、イケメンの部類には入りそうだし、何よりオフィス内での将来性が明るい。

無能な私の教育係をやらされてる時点で、確実に有望視されてるのは間違いない。


「羨ましいなぁ、青空先輩は」


名前通りに未来が遥か遠くまで広がっている。

それに比べて私は、一寸先ですら闇に近い。


「結婚して名前が変わったら運命も変わるのかなぁ。『青空夏生』なんて名前になれたら、元気一杯で生活できそうだけどな…」


ははは。

考えるのはタダだけど虚しい。

だって、先輩は仕事の出来ない女は嫌いだと言った。

それから、物覚えの悪い奴は一緒にいると疲れる…って。


「否定してたけど、丸まんま私のことじゃない」


教育係として円滑に仕事をしていく為に謝ったんだろうと思う。
それはそれで、社会人としては当然だから何も言わない。


先輩は芯から私のことを想ってはきっとくれない。

だって、どんなに頑張っても先輩の理想には近づける自信が私にはないから。


「いいんだって。救世主は先輩じゃないから」


落ち込む想像は止めよう。
とにかくベッドの中に潜り込んで目を閉じて、何も考えずに息をするんだ。


(でも、その息が急に止まったら?)


不安は次から次へと沸き起こる。

悪夢に魘されながら朝を迎え、私はまた寝不足のままオフィスへと向かった。


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