これを『運命の恋』と呼ばないで!
ブラックコーヒーはニガテだ。
舌の上に渋味が残って、口の中が変にザラつく。

でも、栄養ドリンクに比べたらまだ飲める。
だから、寝不足の日には必ず飲むようにしている。



「寝不足か。バカ山」


朝から悪夢の元凶に声をかけられた。


「ああ、はい。まあ」


ぼーっとしたまま返事をして、朝の挨拶をするのも忘れていた。


「酷い顔だな」

「いいでしょ。ほっといて下さい」

どうせ死期が近いんだから綺麗にメイクしてもおんなじ。
もしも私が病気で急逝したら、その時は智花に思いっきりメイクして貰おう。


(良かった。死んでもいい理由が一つできた)


死んでもいい理由を見つけていこうと思ったのは夜中。

悪夢に魘されながら「まだ死にたくないよー!」と叫んだ時に声が聞こえた。


『人間いつかは死ぬ。だから、死ぬまでに死んでもいい理由を見つけて生きなさい』


普通なら『生きている理由』を探すもんだけど逆なのね…と、起きてから不思議なくらい納得した。

死んでもいい理由が多く見つかれば見つかる程、きっといい死に方が出来そうな気がしてくる。



「何だ。その不気味な笑みは」


顔を覗き込んでた先輩の「への字」口が動く。


「人の顔、覗かないで下さい!」

「悪い。目の下のクマが酷いなと見てただけだ」

「クマ!?先輩、あのね。これでも私はまだ20代前半なんですよ!?幾ら寝不足だからって目の下のクマを覗かなくてもいいでしょう!?」


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