これを『運命の恋』と呼ばないで!
悪趣味もいいとこだ。本当に意地が悪い。


「だったらきちんと寝ろよ。なんの為に真っ直ぐ帰したか分からないだろ?」


残業の後、先輩は何処かへ寄ったんだろうか。
一昨日と同じように夕飯を食べに牛丼屋か何処かに?


「お前、それで仕事になるのか?」


見るなというのに自分の目の下を指差しながら聞いた。


「なります!ブラックコーヒーの力を借りて、何としてでも就業時間内に残務整理を片付けてみせます!」

「言ったなぁ。寝るなよ」

「寝ません!絶対!」


宣言してデスクに着いた。
最初の1時間か2時間くらいは、コーヒー効果もあって起きていられた。

でも、お昼近くになるとどうしようもなく眠くなってきて………


(あー、ヤバい。この感覚。まるで居眠り運転した時と同じくらいに意識が朦朧としてる……)


体が車体だとしたら絶対に蛇行運転中の筈だ。


「バカ山、手が止まってるぞ!」


向かい側のデスクから鬼が私のことを注意した。


「ふぁい。すみません」


虚ろな声で答える。

マズい。これは本格的にヤバいパターンだ。


一瞬だけ気を取り直そうとした。

でも、次の瞬間、目の前がクラッと舞ってしまいーーー



「若山っ!」

「ナッちゃん!」


青空先輩と隣のデスクにいる汐見(しおみ)先輩の声が同時に聞こえた。

「はい…」と返事をしたかったのに、何処かで打った右肘が痛くて痛くて。


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