これを『運命の恋』と呼ばないで!
まるでお父さんとお母さんみたいな感じ。


「変なの」


小さく声を出して笑いそうになった。


「まだ半覚醒だな」


男性の声が聞こえ、ぎゅっと鼻先を摘まれる。


「イタッ!」


少しだけ当たった爪の先が小鼻を刺激した。


「空君!」

「起きろ。バカ山!」


鼻を摘んでる指に力が加わる。


「イタッ!痛いから止めて!」


摘んでる指先に手を触れた。
ごつっとした指の感触に、ビクッとして目を覚ました。


「………あ……青空先輩……」


私の鼻先を握ってたのは、牛丼屋で手を取ってくれた人と同じ人の手だった。
あの時とは全く別の感触だったのは、指先に力が込められていたせいだ。


「お前、絶対に寝ないと言ったのは嘘か!」

「へっ?」

手を振り解きながら、先輩が鬼の顔を見せる。


「今何時だと思ってる!?」

「えーと、何時ですか?」


怖い顔から目を背けることも出来ずに聞き返した。



「午後2時よ」


優しい女性の声に目線を変える。


「汐見先輩!」


隣のデスクに座ってる女性だ。


「あの……どうして先輩達がここに?」


と言うか、そもそもここは何処!?

キョロ、キョロ、と周囲を見渡す。


白い壁紙が貼られてある部屋の様子が、次第に脳みそに刻み込まれていく。

私が寝てるのはどうやらソファの上らしい。

体の上にはオレンジ色の毛布が掛けられてあり、先輩達の後ろにはガラスのローテーブルが置いてある。

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