これを『運命の恋』と呼ばないで!
壁付けされたキャビネットにはビッシリと分厚いファイルが並び、その左手には文字が沢山書かれたホワイトボードが掛けてあった。


ここはどう見ても総務課の隣にある資料室だ。

自分が寝ている場所は閲覧用の応接セットのソファで、掛けられてあるのは守衛さん用の毛布。

そして、その毛布はいつ洗濯するのだろう…と、課内の皆が噂する程古めかしい物だった。



(まさか、その未洗濯の物を掛けられてる!?)


ガバッと起き上がって確認する。
毛玉だらけの毛布は、オレンジ色から茶渋色に変色していた。



「いやーーっ!」


叫び声を上げると同時に口を押さえ込まれた。


「バカ山!声がでかい!」


口を押さえてるのは青空先輩だ。
汐見先輩はその隣で、私達二人のことを呆然と眺めている。


「もごっ…もごっ…(離して!息ができない!)」


吸うことも吐くこともできない。
先輩の手が大きすぎて、唇全部が塞がれている。


「あ…悪い。つい…」


掌がさっと逃げて行った。
それと同時に解放された唇で、私は大きく息を吐いた。


「ハー、ハー、ハー、フーー」


(く、苦しかったぁぁ)


「これで完全覚醒しただろう」


鬼先輩が得意げな顔をする。


「空君ったら、揶揄い過ぎよ」


大丈夫?と汐見先輩が気遣う。


「平気です……それより、私、どうして資料室なんかで横になってたの?」


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