これを『運命の恋』と呼ばないで!
「覚えてないの?」

「お前は眠気の余り、自分の椅子から転げ落ちたんだぞ」

「椅子から転げ落ちた?」

「そうよ。それで床に倒れ込む前、サイドデスクで肘を強く打ってね」


痛くない?と右肘を指差される。


「イタッ!」

「だろうなぁ。さっき湿布貼ってやろうとしたら真っ赤に腫れ上がってたもんなぁ」


鬼は可笑しいらしく、ククク…と珍しく笑ってる。


「ガツンって凄い音がしたのよ。指とかは動かせる?」


折り曲げてみるよう言われてやってみた。


「大丈夫ね。じゃあ骨や神経に異常はなしと見ていいか」


まるで看護師か医師みたいに判断された。


「私、ここに運ばれてきたんですか?」

「ああ。俺が特別に抱えてやったんだ」

「せ、先輩が!?」

「そう。それもお姫様抱っこで」

「ゲッ!」

「なんだよぅ。その声は」


汐見先輩が一緒だから?
いつも以上に先輩の口調が優しい。


「あっ……!私、仕事が……!」


こうしちゃいられない。
残務整理がまだ残ってた。


「今日はもう仕事をするな」

「えっ、でも監査が……」

「まだ日数はあるし、今日お前がやる分は課内の全員に振り分けたから大丈夫だ。だから、安心して休め。寝不足解消に早退でもしろよ」


そんなこと言われて「はい、そうですか」なんて言える訳がない。
それでなくても私は皆より仕事が出来ないのに、自分の分まで人に任せて帰れるもんか。


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